●アマチュア無線


 かつて大ブームが巻き起こり、趣味の王様などと呼ばれた栄光の時代もあったアマチュア無線。しかし、いまや趣味人口の減少が著しい。携帯電話やインターネットの普及に押され、「電話ごっこ」として遊んでいた連中は去っていった。とはいえ、まだまだ熱心な愛好家は多いという。むしろ、本当に好きな人が残ったので深まったという見方もある。実際はどうなのか私は知らない。

 そもそも、アマチュア無線というのは何が面白いのか。
 私が思うに、アマ無線の楽しみが残されているのは、主に短波帯での国内長距離(DXという)や国際通信の分野ではないかと思うのだ。電線などで簡素なアンテナを作って(むろん買ってもよいのだが)電波を出せば、コンディションさえよければ外国の愛好家と交信できる。雑音につぶされたり信号の強さが変化したり、時間帯によっては全然飛ばなかったりと不安定なところも面白い。漁業無線から消えつつあるモールス通信を楽しむ向きもある。



 私はキャンプ場で楽しむことが多い。
 自宅に設備を揃えてもよいのだが、下手をすると近所のテレビやラジオなどに影響を与えてしまうおそれがある。また、借家住まいなのでアンテナ線を通す穴を壁にあけてしまうわけにもいかない。まぁ、いろいろと面倒なので車に積んでいる。

 キャンプに出かけたらもう一台ある短波無線機を出し、バッテリーをつないでアンテナを張ってチョロチョロと電波を出して遊ぶ。誰もいないキャンプ場なので迷惑になることもない。また、電波を出す「送信出力」が小さくても、つまりこちらの電波は弱くとも、北海道から九州や沖縄、近隣諸国まで軽々と飛んでいく。

 孤独のキャンプ場が、遠く離れた見知らぬ土地と、だしぬけに「つながって」しまうのだ。携帯での通話もままならない寂しいキャンプ場に、世間とようやくつながった、何とも頼りない細い糸を見つける気分になる。この心細さ、不思議さが実に面白い。



 会話の内容は他愛もない世間話だ。何しろ初めて話す相手だし、だいたいまぁ天気やどんな場所なのか、などだ。こちらがキャンプしながら交信していることを伝えると、うらやましがられたり、相手の経験談を聞くことができるなど、これが単純だが案外楽しい。

 免許を取るためには国家試験を受けることになるが、いちばん簡単な4級なんて、小学校に上がる前の漢字も読めない子供があちこちでゾロゾロ合格しているわけだし、丸暗記OKの簡単な試験だから気が向いた篤志家さんは受けてみてはどうだろう。
■ 無線機



 アイコムのIC-703をメインに使っている。アウトドアでの運用を意図した製品ということもあって、外で遊ぶのにちょうどよい大きさだ。アンテナチューナーも内蔵していて、手軽に運用できるのが気に入っている。

 送信出力はわずか10Wだけれど、アンテナとコンディション次第ではきちんと頼もしく飛んでいく。受信性能もよく、暇つぶしに聞く洋上航空管制も、とてもきれいに入感する。

 暗闇で運用することが多いので、ディスプレイやスイッチだけでなく、パネルの文字にもイルミネーションがあればなおよい。
■ ヘッドセット


 アメリカの"Plantronics"社製のヘッドセット"MS50T62-30-2"を愛用している。

 これは航空通信用のヘッドセットで、MS50というのは世界中のパイロットや航空管制官などに半世紀近くにわたって使われてきたロングセラーだ。代替わりも進んでいるけれど、今も日本の管制官はこれを使っている。

 映画『アポロ13』にも登場したので見覚えのある人がいるかもしれないが、実際にNASAでも採用されていたというのは信頼性をはかる一つの指標といえるだろう。厳しい品質基準をクリアした製品だから、そう簡単に壊れることはないはずだ。

 軽量なので長時間使っても疲れにくく、音質はさすがプロ用とあって無線通信に適したものだ。雑音や干渉の多い短波を使うアマチュア無線にももちろん適している。

*  *  *

 ヘッドバンドに黒く小さな箱を付けて使う。その箱から黒いマイクブームが口元に伸び、その後ろからレシーバーの透明なチューブが耳に伸びる。そっと頭に乗っている感じが心地よい。

 移動運用などで長時間ぶっ続けの運用でも疲れはない。車を運転しながらの交信にも、装着の違和感がないので運転の妨げにもならず使いやすい。まぁ、パイロットが操縦しながら使うものだから当たり前でもあるけれど。

 MS50には、管制官用とパイロット用とがある。

 管制官用には、コードの途中でPTT(送信ボタン)がついている。手で握って使える大きさで、実に使いやすい。簡単なつまみ操作で、「押している間だけ送信」と「一度押したらもう一度押すまで送信」の2つのモードを切り替えて使える。

 このPTT付きのモデルはどうやらすでに販売されていないものらしく、ヤフーオークションなどを通じて手に入れた。

 私がアマチュア無線に使っているのは、このPTT付きのモデルだ。そのままでは端子が合わず使えないので、インターフェイスボックスを自作して使用することになる。

 一方のパイロット用にはPTTがない。コードの先には日本ではあまり見かけないプラグがついているので、それをはずしてキャノンコネクタに取り替えた。こちらは、別に用意した安物のマイクアンプを通じてパソコンにつなぎ、Flight Simulatorのバーチャル航空管制通信やskypeなどに使用して遊んでいる。

 PTTなしモデルはまだ販売されているが、アメリカの航空用品店から個人輸入する形で手に入れた。

 なお、航空用ヘッドセットについてはこちらに大変詳しく記述されている。

(2005/12/4)

戻る