2003年06月07日(土) 新テントの試運転 滝沢村 相の沢キャンプ場 |
土曜も仕事だった。21時に職場を離れ、家でシャワーを浴びて水と食糧を積み込む。車を走らせ、30分ほどで現着した。滝沢村の「相の沢キャンプ場」。トイレが清潔で快適、無料。何といっても近くて気軽に出かけられるのがよい。 少し前にも、職場の仲間と総勢6人で出かけた。場内には松の木が多く、その根元には落とした枝がこんもりと捨ててある。場内中央付近にはファイアーサークルがあり、たき火し放題。バイクで旅行中のライダーたちも駐車場の脇にキャンプをしている。 前回はとても空いていたが、今回はどうだろうか。駐車場には車が一台も停まっていない。ライトを消すと闇になった。 |
駐車場からキャンプサイトまで歩く。キャンプ道具を入れた大きなバッグを担いで歩く。テント、マット、シュラフ、火器類…。重い。2分ほど歩いただけなのに、汗がにじんだ。 駐車場には車がなかったのに、キャンプサイトには数台の車が乗り入れられていた。キャンプ場に車を乗り入れないで、と呼びかける看板が立っていたのに…。他の人はどうであれ、私はマナーよくキャンプをしたい。 普段からそう願っている私だが、今夜はそうもいかなかった。到着が夜。22時30分。近くに見えるいくつかのテントは静かになっていた。もう寝ているのだ。 寝ているところへガサガサとテントの設営を始めるのは、本来ならやってはいけない迷惑行為の一つ。そう知りつつ、できるだけ音を立てないようにテントをたてた。 |
今回は初めて「ムーンライトテント2」を使う。本来なら、実地の前に試験設営をするのが望ましいが、残念ながらその時間的余裕がなかった。簡単だというので、説明書を手元に置いて設営した。 なるほど、簡単である。初めてなので当然手こずるところも一部あったが、基本的に思い通りに設営することができた。手早く寝床を作り、潜り込んだ。 夕食は職場で食べた。酒は、今回は見合わせることにして、とりあえず寝ることにした。LEDライトの光を頼りに、しばらくの間はキャンプ場ガイドブックをめくっていたが、いつの間にか眠りに落ちていた。 |
目が覚めたのは、午前4時頃。一度トイレに行って二度寝をした。その時目に入った光景。朝靄をうっすらとまとった緑の高原の上に、朝になろうと背伸びをする未熟な空が広がっていた。少しばかり深呼吸をして、再びテントに入る。朝の空気を味わいながら、寝袋に潜り込んだ。 この、惰眠をむさぼる贅沢なひととき。喜びである。時にはこうして朝寝を楽しまなければ、精神状態を正常に保てなくなってしまうと思う。 ということで、誰にも遠慮せずに朝寝を満喫する。こういうとき、誰か一緒だったら、起きて何かしようとか、どこかへ行こうとか、腹が減ったとか、ガチャガチャと口を出すに違いない。そんな環境で休めるだろうか。否、無理である。 このフィールドでは、他の誰でもない、私こそが自らの主人なのである。 |
耳障りな音で目が覚めた。どうやら、テントの近くを蜂か虻が飛び回っているらしい。低い羽音が断続的に聞こえている。うるさいし、危ない。うっかり外に出て刺されてしまっては悲劇である。 虫ばかりではなかった。未就学児童と推察されるガキどもが、あろう事か私のテントのまわりで遊んでいる。うるさい。「小さいテントだ」「うん、小さいね」。放っといてくれ。あっちへ行け。こっちは寝ているのに。 本来、子供が嫌いな私ではない。だが、フィールドでは距離を置きたいのだ。しばらくテントの中に隠れていることにする。さすがのガキどもも、テントを開けてしまうなどの無謀な行動に出ることはあるまい。 しかし、親は何をしているのだ。「人のテントに近寄ったら迷惑でしょう」などと叱ったりしないのだろうか。キャンプ場にいるというのは、教育のチャンスだと思うのだが。 |
やがて、車の音がした。その一家は、車の乗り入れができないはずのキャンプ場を去った。静寂が戻り、セミの声だけが聞こえる。まだ梅雨入りしていない頃だというのに、セミがいるのだなぁ。しばし、もの思い。 テントの中は温度が上がり、寝苦しいレベルに達していた。早く外に出たかった。未就学児童らがいなくなったので、安全だ。虫の羽音も聞こえない。外に出た。 昨夜は遅く到着して、とりあえず空いているところにテントを張った。そこは日なただ。本当は昼間でも涼しい木陰に設営したかったが、夜間にライトでやたらと周囲を照らすのは迷惑行為。暗いテントの中にいて外から照らされると思いのほか眩しいのを知っている。だから、日なたになりそうな場所と承知で設営した。 ペグを引き抜き、いそいそと引っ越しだ。中から重そうな道具を取り出し、フレームの上部をヒョイと持ち上げる。そのまま、木陰のよきところにテントを移動した。ペグを打ち、引っ越し先でさらに横になってみたりする。涼しい。これは快適。思わず朝寝第2弾である。 |
腹も減る。めしにしよう。ソウルで買って船便で送ったインスタントラーメンが山のようにある。今回のキャンプにはそれを2袋持ってきた。大勢のキャンプなら、腕を振るって迫力満点の豪華な料理もよかろう。それもできる。しかし、ひとりキャンプであれば、食事に手間をかけすぎるのは不毛だ。インスタントで十分である。 よきところに低いテーブルを置き、灯油バーナーで湯を沸かして食べた。辛い。でもうまい。青空の下、ズルズルと一気に食べてしまった。 食べ終わったが、今ひとつ小腹が満たされない。もう少し食べたい。予備にマルチャンを用意していた。緑のたぬき。 カップに熱湯を注ぐのは、環境ホルモンの摂取につながるので、チタンのクッカーに移して煮る。これもうまい。普段はインスタントを避けている私だが、ひとりキャンプではインスタント支持派に寝返る。 |
食べたら寝る。食ちゃ寝の暮らし。あこがれである。年中そうだとちょいと厄介だが、たまにはそうなりたい。 このキャンプ場は鞍掛山の登山口にあり、時折登山の格好をした老若男女がキャンプ場の脇を通って山に消えていく。1時間足らずで登れるとあって、年輩者にも人気の山である。テントの中に横たわっていると、時折、そうした登山客の声が聞こえるほかは、人工ノイズは耳に届かない。 バッグの中には、古書店で安く買った文庫本が数冊押し込んである。どれも、何も考えずに読めるような気楽なエッセイだ。時間を持て余したら読もうと思って持ってきたもの。しかし、本を読む気にならなかったら別に読むこともない。本を用意したからといって必ず読むべきこともない。 しばらくゴロゴロして、体と心を休める。風と鳥のさえずりを聴きながら横になっていると、疲れがそのまま土に吸い込まれて消えていくような気がする。ストレスの雲が静かに流れ去り、頭の中がすっきりと晴れ渡っていくのを感じる。 やめられない。同行者がいれば、こううまくはいかない。話し相手もしなければいけないだろうし、退屈させないように気を使わなければならないだろう。 ひとりで、何も考えずにのんびりできる喜びをかみしめながら、時が足元を過ぎていくのを他人事のように眺めている。 |
夕方になった。十分にリフレッシュしたので、明日からの仕事もまた頑張れそうだ。新鮮な気持ちで荷物をまとめ、家路をたどった。帰りもドライブを楽しめるキャンプ。往路とは違うルートで帰ることにした。 |