2004年6月5日(土)
道連れキャンプ・友人編
室根村 室根山



 前夜、職場の仲間とうまいイタリアンを食べに行った。ちょっと値の張る、とてもおいしい店。上品なインテリア、私にぴったりと見つけた。結局24時まで店で過ごし、翌朝は遅く起きた。昼前に自宅を出発。盛岡から水沢までを高速道路で、あとは一般道のショートカットで現地を目指す。のんびりとパラグライダーの稽古に汗を流した。



 挨拶をして仲間と別れ、定番の原っぱにテントを張った。天気はいい。初夏の空気。快適な夜になりそうだ。あれこれと支度をして、近くの風呂へ。

 キャンプとはいえ、スポーツで汗をかいた後だ。最低限の清潔感は大切にしたい。室根山の頂上手前まで登り、その向こうへと抜ける道をたどる。「大東・ふるさと分校」という交流施設に風呂がある。練習の疲れが取れていく。



 同時に、キャンプできるぞというほのかな嬉しさがじわりじわりと心の中に広がり、満たされていくのがわかった。
 初夏ともなると、虫が出てくる。いわばよそ者である人間が勝手に自然の中に入り込んでいるのだから、少しは遠慮してもよいのだが、どうせなら快適に過ごしたい。虫に刺されて医者にかかるような事態も避けたいし、虫が気になって眠れず翌日居眠り運転事故、などというのも御免だ。



 というわけで、虫除けグッズを導入。基本的に、虫を殺戮するよりも、虫が遠ざかっていくような仕掛けを準備した。まずは「蚊取り線香」。テントのそば、入り口近くに置く。これが安価で一番。箱で買っておけば、一年分のキャンプでも余るくらいだ。



 蚊取り線香を補完するのが虫除けスプレー。ホームセンターで購入。水性らしく、肌にも優しい植物成分とか。シュラフにやたらと臭いが付くのも何なので、穏やかなこれはもってこいだ。キャンプのたびに使っても、こちらも余裕で一年分以上ある。車に常載、夏のドライブならいつでも活躍する。
 夏のキャンプとなれば、水もそれなりに使う。冬キャンプでは寒くて手を洗ったりしないし食器も持ち帰って洗うことになるが、気温の高い夏ならばそこで洗ってしまう。それに、早朝、青空を仰ぎ見て顔を洗うのもとても気持ちのいいものだ。



 設備の整ったキャンプ場なら水場も整備されているだろうけれど、ここはキャンプ場というよりも単なる野原。水場は車で5分ほど離れたところにある。下界で水を汲んでおいて、このようにサイトにタンクを据えつける。隣にはお茶のペットボトルを置き、いつでも飲めるようにする。これで快適なキャンプの準備ができた。
 今回のキャンプにも道連れがいる。S君。誕生日が私と同じ。同じ年の同じ日に生まれた友だ。今回は、二人で誕生日を祝おうという少々怪しげな趣旨を帯びたキャンプとなった。それに、そのS君にもキャンプの楽しさを知ってもらおうという趣旨がある。だから「道連れ」であり布教なのだ。

 二人で隣の気仙沼市へ買出しに出かけた。大きなスーパーでビーフステーキとサーモンのハラミなどを仕入れた。着火剤を使って手軽に炭火を起こし、火が落ち着いたところでさっそく焼き始めた。すぐに焼き始めると着火剤の煤がついてせっかくのご馳走が台無しになってしまう。



 ジュウジュウと脂が落ち、炭から景気よく炎が上がる。香りがあたりに広がっていく。風も弱く、サーモンの焼ける音だけが聞こえる。静かで平和な夜だ。明かりを消してみると、炭火コンロから立ち上る炎だけがあたりを弱々しく照らす。興奮し、ふたりでカメラを取り出して炭火焼の撮影会。



 炎の向こうでS君が携帯電話のカメラを向けている。繰り返すが、野郎二人である。何やってんだか、俺ら…。
 で、これがうまかった。炭火で焼くサーモンは文句なしにうまい。サーモンのハラミのうまさは前回のキャンプで実証済み。今後のキャンプでも、店でいいハラミを見つけたら炭火で楽しむことにしよう。

 酒は、梅酒や焼酎などをそれなりに。多すぎることは決してなく、もう少し飲みたいというくらいでやめておくのが大人のキャンプである。心がすっかりほぐれたところで、挨拶をして別々のテントにもぐりこんだ。今夜はこれまで。満足であった。



 朝。早起きである。5時過ぎには目を覚まし、テントから這い出す。原っぱの草には朝露が降りていて、サンダル履きで歩き回ると足首より下がだんだん湿ってくる。ひんやりとした感触が心地よい。

 夜の間もすっかり天気がよく、小用で目を覚ましたときも空には満天の星が瞬いていた。こんな金のかからない小さなことで喜べるというのは本当にありがたいことだと思う。

 うまいメシ、うまい酒、うまい空気、美しい星空、そして早寝早起き。ストレスを消し去り、普段の会社勤めで積み重なった疲れを忘れるキャンプ。やめられない。



 顔を洗い、もう少しゴロゴロしながら読書でもしようかと思ってテントへ歩こうとしたとき、テントの向こうに何かが動いた。野うさぎである。別にウサギなんて少しも可愛いとは思わないし興味もないのだが、珍しいので一応撮っておいた。しばらくして茂みの中に消えていった。
 朝食には、昨夜買っておいた明太がある。かんたん炊飯器で飯を炊き、その上に明太をほぐして載せる。アツアツご飯によく合う。ひんやり涼しい山の朝、温かい朝食でもりもりと元気が出た。



 この後もしばらく忙しい日々が続く。東北地方北部はこのキャンプの翌日7日に梅雨入りしたと見られると発表された。梅雨入り前に天候に恵まれ、うまいメシに舌鼓を打ったキャンプだった。それに布教作戦は見事に功を奏し、S君もキャンプ好きになってしまった。

戻る