2004年6月19日(土)
道連れキャンプ・友人編2
室根村 室根山
 キャンプの楽しさを知ったS君は、私が使っているものと同じ、モンベルの「ムーンライトテント2」を購入した。いくらだったか忘れたが、インターネットのオークションで安く手に入れたと喜んでいた。というわけで、同じテントを二つ並べてキャンプをすることになった。



 日曜日にパラグライダーの練習をするつもりで土曜の午後に現地入りしたが、天気は思わしくなかった。梅雨入りしたのだからそれは仕方のないこと。まぁ、あせらずにやればよい。悪天候のなか無理に飛行訓練をしたなら命に関わる危険なことだが、キャンプであればたいした心配もしなくてすむ。せいぜい、落雷や突風、あるいは洪水、土砂災害などに注意すればよい。そもそも、そんなに危険な場所ではキャンプをするはずもないし、そんなにひどく天気が崩れるのなら職場に招集がかかるのでキャンプどころではない。
 私は、キャンプのついでにアマチュア無線機材のテストをしようと準備していた。うまくいけば海外まで届く短波無線、アンテナや電源(車のバッテリー)などを揃え、この機材で初めて電波を出す通信テストだ。あらかじめ打ち合わせをしておいた盛岡の仲間に呼びかけるが、どうも届かない。こちらを呼ぶ先方の声はわずかに聞こえる。実験失敗。アンテナの調整が今ひとつだったのだろうか。とりあえずあきらめて他のことをする。

 雨が降るかも知れないという予報だったので、炭火を用意して豪華に、とはいかない。夕食はおとなしくガスストーブでレトルトカレーだ。これでよい。安いカレーでもおいしい。少しアルコールも出して語り合う。キャンプという行為に対するS君の興奮はある程度落ち着いていて、キャンプの雰囲気をじっくりと楽しめるようになった感じだ。

 空は曇っていて星は見えない。携帯電話を使ってインターネットのピンポイント天気予報を確認すると、どうもやがて雨が降り出す見通しがいよいよ強まってきたようだ。

 短波無線機は周波数を変えて、航空管制をモニターするようにセットした。短波を使った洋上管制。東京や那覇の管制、サンフランシスコの声がとてもよく聞こえる。それに応じて、洋上を飛行する国際線のパイロットが現在位置や風向風速、燃料の残量などを簡潔にリポートしている声が雑音のなかから浮かび上がってくる。



 キャンプ地で、遙か彼方から聞こえてくる声に耳を傾ける。西太平洋もまだ深夜。星空の下、たくさんの旅客機が飛び交っている様子がまぶたに浮かんでくるようだ。静かな夜を過ごすのにとてもいいBGMとなる。通信に飽きたら、あるいは国際放送を楽しむのもいいかもしれない。孤独なキャンプの夜に、ラジオはとてもふさわしいパートナーだ。それが海外のラジオをじっくり聴けるとなればどんなに楽しみが広がることだろう。

 しばらくテントの傍らに機材を置いて聴いていたが、雨が降り出したので片づけて休むことにした。



 朝起きると濃い霧であった。見通しは数十メートル。飛行訓練は絶望的だ。まさか計器飛行を真似るわけにもいかない。潔くあきらめて、キャンプの名残を楽しむことにする。もうしばらくテントの中で時間を過ごそう。

 

 東北、梅雨のはしり。まだ暑いと感じるほどではない。足もとをメッシュにして風を通す。霧雨の朝、ひんやり湿った空気が静かに通り過ぎていく。私の心はすっかり潤いを取り戻していた。小窓から見える草も、その葉に美しく水滴をまとっている。すべてを潤す雨は、私のテントを静かにたたいて心地よい音を立てている。




 横たわって天井を見上げる。小さな水滴がフライの外を滑っていく。ポツ、ポツ、ポツ…。無限に続く。二度寝してしまったようだ。




 土砂降りだとうんざりするが、小雨はそれなりに味わいがあってよい。晴れだけがキャンプに適しているのではないということを改めて認識することができる。晴れていれば、片づけるときにテントをひっくり返すなどして乾燥させられるから簡単だが、雨にふられるとキャンプから帰ってからアパートでフライやインナーを乾かさなければならない。それは確かに手間ではあるから、雨がバッチリ降ると重々承知の上でも喜んでキャンプに出かけるとまではいわないけれど、まぁ億劫がるほどのことでもない。




 普段の仕事で疲れた心を潤す雨。室内から眺める雨は暗く寂しいものだが、フィールドで出会う雨はむしろ静かな生命力に満ちたささやかな一つのイベントですらある。11時に片づけて、すがすがしい気持ちで帰途についた。

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