2005年4月16日(土)
“つながる”孤独
ャンプ
釧路町 来止臥野営場
 新年度である。まぁ淡々と働いているが、キャンプが思うようにできずにいる環境にあることは変わりはない。一方で最近たのしみにしているのがアマチュア無線の運用だったりする。



 街の雪もようやくとけた。春が来たと実感。この「待ってました感」の強さは、北国暮らしの喜びだと思う。たとえば関東以南であれば、まぁ春になれば気温が高くなるのだけれど、何かずるずると春へと移行していく感じがする。一方、北国の春は訪れのタイミングがわかりやすい。古い皮をバリッと破るかのように、ある種唐突に春になるのだ。そのメリハリがうれしい。

 しかし、春とはいえ時々寒くなったり雪が舞ったりする。まだ油断するわけにはいかず冬タイヤのままである。寒の戻りもつきものだ。街の人に聞けば、タイヤを替えるのは5月の連休過ぎとか。

 久々のキャンプ。出かけた先はいつもの来止臥だ。



 変わらぬ景色が出迎えてくれる。まだ草は青くはなく、冬の名残をとどめている。
 昼間は広い河川敷でアンテナのテスト、そしてスーパーで総菜を買うなどして家を出た。到着は17時。この時間でも十分に明るい。日が長くなったのだなとしばらく空を眺めて設営にかかる。



 砂利道の海側に幅数メートルの芝生が広がっている。崖のすぐ手前にテントを張ることにする。かつて東屋でもあったのだろうか、基礎が残っているその隣が定位置だ。
 夕闇が迫る。手早くテントを張る。三脚を据えて写真を撮りながらやってみた。







 うーん、スムーズ。まだこのテントでは20泊程度であるが、手慣れたものである。


 テントのそばにアンテナと無線機、それにバッテリーをセッティングした。さぁ、食事の前に無線遊びだ。

 

 やがて日が沈み、だんだん暗くなってきた。キャンプ場の奥にも車を停めたりテントを張ったりできる場所があるが、さすがに4月では誰もいない。まぁここは夏であっても人影はまばらだが、こんな冬と春の中間のような中途半端な時期にこんな寂しい場所でキャンプをする者などいない。貸し切りである。



 アンテナは太平洋の向こう、日本列島に沿うように向けている。東京にいる仲間にメールを打ち、長距離通信のテストをしてみる。昼間はたくさんの声が聞こえていた7MHz(メガヘルツ)帯は、夜が近づくに連れてコンディションが変化してきたのか、聞こえてくる声も少なくなったように感じられる。



 先方から示された周波数で待機する。こちらを呼んでいるのが聞こえて声を出してみるが、こちらからの電波はかろうじて判別できる程度だったようだ。成績はよくなかったが、何とか東京の仲間と交信ができた。


 無線遊びを一時中断して、夕食にする。スーパーの総菜売り場で買ってきたものを食べて済ませる。お買得品、の文字が哀愁を醸し出す(か?)。



 風も寒くなってきた。もともとサービスエリアのギリギリ内側という感じであるが、さっきまで何とか使えた携帯電話。不思議なことに圏外になってしまう。短波と違ってうーんと高い周波数帯を使う携帯電話であっても、時間帯によって伝搬状況が変わるのか。まさか電離層は関係あるはずもなく、どんな理屈で変化するのかと首をかしげる。これでいよいよ孤独っぽくなった。


 夜になり、風が寒くなった。外のテーブルなどをたたんでテントに入る。バッテリーは前室に置き、アンテナの同軸ケーブルを引き込む。7MHz帯、ちらほらと声は聞こえている。四国は徳島の局と交信ができた。そのほかにも少し交信を重ね、出来はまずまずといったところだった。あとはお決まりの洋上航空管制に周波数を合わせ、リラックスタイムとする。



 今回も旅の友は「梅酒」と「チーズ」。少しだけでいい。あまり多く取りすぎるとボディラインが崩れる。ベビーチーズは全部食べてしまうこともない。1つか2つでよい。梅酒も少しだけ。心がほぐれたところで寝袋に潜り込み、あとは本を読んだりしてのんびり過ごす。

 自宅にいるとどうも、ねぇ。
 だって、インターネットに常時接続されたパソコンが夜遅くまで私をつなぎ止めていたり、にぎやかなテレビがずっと騒いでいて入眠時刻を遅らせたりするんだもの。そう、私の意志に反して、だ。

 で、翌朝も疲れがとれぬまま出勤することになるのだ。意志が弱い私はついついギリギリまで寝床から抜け出せず、朝食を取ることもなくバタバタと出勤する日が多い。

 何もないキャンプの夜、静かに時間が過ぎていく。遠くから聞こえる波の音、そして彼方から飛んでくる電波に耳を傾ける。時にはこんな時間も過ごしたい。孤独になる夜というのはやっぱり貴重だなぁとしみじみ思う。

 この夜、眠りについたのは02時。時刻については普段の夜と大きく変わらないが、質の高い時間をゆっくり過ごせたという満足感が決定的な違いだ。


 朝、起き出したのは7時。何も見えない。濃霧である。海水温の低い釧路沖の太平洋に南から湿った空気が入り、そこでできた霧が陸へと押し寄せるのだ。ときには摩周湖のあたりまで、内陸奥深くへ霧が届くこともある。

 南風が吹く、これも春。これから5月に入るといよいよ霧の季節が始まり、夏は霧ばかりとなる。



 アンテナにも水滴がついている。こんなにびしょ濡れで電波を出してもいいのだろうか。



 すぐそばに海があるはずなのに、その気配すら感じられない。視程はだいたい30mというところか。



 夜には気づかなかったけれど、足もとには「ふきのとう」が顔を出していた。北海道ではこの時期になるのだな。



 霧のなか、何もすることがないので再び寝袋に入る。
 氷点下30度くらいまで冷え込む真冬の夜でも使えるという気合いの入った寝袋だ。暖かいが、さすがにちょっと暑いと感じることも。
 優雅に朝寝を楽しむことにした。



 キャンプ用の枕があったのだけれど、どこにしまったかわからず持ってくることができなかった。でも、横向きになって眠ることが多い私にとっては、枕がないとどうも寝付きにくい。お茶のペットボトルにタオルを巻いて枕代わりとする。


 日もだいぶ高くなった頃、のそのそと起き出す。一度早起きをして、また惰眠をむさぼるのが何とも楽しい。仕事がある普段の平日には決して味わえない楽しみだ。

 あたりを覆っていた霧も晴れ、遠くまで見渡せるようになっていた。崖下では白波が立っている。



 椅子に座ってのんびりしていると、年配の夫婦らしき2人組が車で現れた。ちょっとした山にでも登るような格好をしている。2人とも、キャンプ場のさらに奥へと分け入っていった。この奥には道なき道、そして断崖というか岬というか、まぁたいしたものはないと聞いている。



 海を見ながら朝食、というかブランチである。お湯を沸かしてお手軽キムチラーメン。うまいうまい。ほんとうにうまい。



 あと、リゾットも。スーパーの安売りワゴンで売られていたインスタントリゾット。とても手軽にできて安価な割にはうまい。



 使っているのはUNIFLAMEのコンロ。どこででも手に入るカセットボンベを使用でき、コンパクトなのが気に入っている。キャンプ用ストーブと違って高さもそれほどないので危なっかしくもない。結構火力が強くて頼もしいのだ。

 のんびり食事を楽しんでいる私のすぐ後ろの砂利道を、入れ替わり立ち替わり車が行き来する。「こんな時期にキャンプ、それもひとり?!」という視線に気づかぬふりをして、自分の世界を保ち続ける。

 午後にはアベックが現れた。奥のスペースでバーベキューを始めた。炭火を使っているが、火付けに新聞紙を多量に使って煙と灰をまき散らしている。しかも、それとなく観察しているとまだ熾火にならないうちに肉を焼き始めた。んー。

 14時くらいまでのんびり過ごし、春の訪れを実感した1泊であった。どこから来たのか、突然やってきた犬も足取りが軽やかだった。


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